飲食店で「だし」と聞くと、
- 昆布を水に浸ける
- カツオ節を加える
- 煮出す
- 濾す
といった、昔ながらの**「だしを取る」工程**を思い浮かべることが多いと思います。
もちろん、料理によってはこの工程そのものが大切です。
一方で、すべての料理で毎回同じようにだしを取る必要があるのでしょうか。
人手不足や仕込み時間の短縮、味の安定が求められる現在の飲食店では、
「だしを取る」だけではなく、「必要な旨味を組み立てる」
という考え方もできます。
今回はこの連載のまとめとして、だしを素材ごとの役割に分け、料理に合わせて組み立てる方法を考えます。
「だしを取る」と「だしを組み立てる」は何が違う?
一般的なだし取りでは、
複数の素材から旨味や香りを抽出し、一つのだしとして完成させます。
たとえば昆布とカツオを使う合わせだしであれば、
昆布から旨味を抽出し、カツオから旨味と香りを加えます。
完成しただしは、そのまま吸い物、煮物、茶碗蒸しなどに使われます。
一方、
だしを組み立てる
という考え方では、最初から完成しただしを作るのではなく、
料理に必要な要素を一つずつ考えます。
たとえば、
- 旨味の土台が欲しい
- 魚介の輪郭を出したい
- 香りを加えたい
- 味に厚みを持たせたい
- 後味を長くしたい
といった形です。
その不足している部分に合わせて、素材を選んでいきます。
素材を「名前」ではなく「役割」で考える
これまでの連載では、主なだし素材を次のように整理しました。
昆布=土台
カツオ=香り・和食らしさ
椎茸=厚み・余韻
いりこ=魚介感・輪郭
鯛=上品な魚介の旨味
このように見ると、
「昆布だしにするか」
「カツオだしにするか」
という二択ではなくなります。
料理に必要な役割を考え、
昆布をベースにして、いりこで輪郭を出す
昆布に鯛を加えて、上品な魚介感をつくる
昆布と椎茸で厚みをつくる
といった組み合わせができます。
→関連記事:昆布・椎茸・いりこ・カツオ・鯛のだしはどう違う?料理別の使い分けを比較
まず「料理の主役」を決める
だしを組み立てるときに最初に考えたいのは、
だしそのものではなく、料理の主役です。
たとえば白身魚料理であれば、主役は魚です。
ここで魚介だしを強くしすぎると、魚そのものの味が分かりにくくなることがあります。
その場合は、
昆布を土台にして、鯛を少量加える。
あるいは昆布だけで旨味を支える。
といった設計ができます。
一方、味噌汁のように味噌の存在感が強い料理では、
いりこを使って魚介の輪郭をはっきり出す方法があります。
つまり、
だしの強さではなく、主材料との関係で考える
ことが重要です。
料理の「不足している部分」を考える
味見をしたとき、
「何となく物足りない」
ということがあります。
ここですぐに塩や調味料を加えるのではなく、
何が不足しているのかを考えてみます。
味の土台が弱い
昆布などで旨味のベースを補います。
魚介感が弱い
いりこなどで魚介の輪郭を加えます。
味が薄く感じるが塩は増やしたくない
昆布や椎茸など、旨味を補う素材を検討できます。
後味が短い
椎茸などで、旨味の厚みや余韻を補います。
魚料理に自然な旨味を加えたい
鯛など、比較的上品な魚介系素材を合わせます。
こうして考えると、
「何を足すか」より「何が不足しているか」
が重要になります。
先味・中味・後味でだしを考える
料理のおいしさは、一口の中でも変化します。
最初に感じるもの。
口の中で広がるもの。
飲み込んだ後に残るもの。
これを、
先味・中味・後味
という時間軸で見ることができます。
たとえば、
カツオやいりこは比較的、先味から中味に存在感を出しやすい素材です。
昆布は中味の旨味を支えます。
椎茸は中味から後味に厚みを加えます。
鯛は中味から後味にかけて、穏やかな魚介の旨味を残す使い方ができます。
そのため、
「最初はおいしいが、食べ終わると少し弱い」
のであれば後味を考える。
逆に、
「味はあるが、一口目の印象が弱い」
のであれば先味を考える。
という設計ができます。

だしを一度に完成させる必要はない
従来のだし取りでは、
鍋の中でだしを完成させてから料理に使用します。
しかし、料理によっては、
途中で段階的に旨味を加える
こともできます。
たとえば、
最初に昆布系の旨味で土台をつくる。
調理途中で魚介系の旨味を加える。
仕上げに不足している旨味を微調整する。
という方法です。
こうすると、
最初から強いだしを作る必要がありません。
料理そのものを味見しながら調整できます。
「追いだし」という考え方
料理が完成に近づいた段階で、
「もう少し旨味が欲しい」
ということがあります。
一般的なだし取りでは、この段階から再び昆布や魚介を煮出すことは難しくなります。
そこで考えられるのが、
仕上げ段階で旨味を補う「追いだし」
です。
たとえば、
- 昆布で土台を補う
- いりこで魚介感を加える
- 鯛で上品な魚介感を加える
- 椎茸で後味を補う
といった調整です。
特に、
煮詰まり具合や食材の状態が日によって少し違う料理では、仕上げの微調整が役立ちます。
「だしを組み立てる」と味の標準化もしやすい
飲食店では、
誰が作っても同じ味になること
も重要です。
「適量の昆布」
「少量のいりこ」
という表現だけでは、人によって量が変わります。
そこで、
- 水1Lに対して何g
- スープ500gに対して何g
- ソース100gに対して何g
という形で数値化します。
さらに、
「不足した場合は0.1gずつ追加する」
など、調整方法まで決めておくと再現性が高くなります。
料理人の感覚を否定するのではなく、
感覚で作ったおいしい味を、数字に置き換える
という考え方です。
液体だしと粉末素材を組み合わせる方法もある
だしを組み立てるからといって、すべてを粉末素材に変える必要はありません。
たとえば、
ベースとなる味は液体だしで安定させる。
そこに昆布や椎茸、魚介系の素材を加えて微調整する。
という方法もあります。
液体だしには、
味を安定させやすい
という長所があります。
素材粉末には、
必要な部分だけ調整しやすい
という長所があります。
それぞれの特徴を理解し、組み合わせることも一つの方法です。

PRE-TASU(プレタス)では「だし素材」として料理に直接使える
PRE-TASU(プレタス)では、瞬間高温高圧焼成によって加工した、
- 焼昆布
- 焼椎茸
- 焼いりこ
- 焼鯛
などを粉末やフレークとして使用できます。
一般的なだし取りのように、
煮出す
↓
待つ
↓
濾す
という工程だけに限定されず、
料理に直接加えながら旨味を調整する
という使い方ができます。
この特徴を活かすと、
「だしを取ってから料理をつくる」
だけではなく、
「料理をつくりながら、必要なだしを組み立てる」
という発想ができます。
たとえば白身魚のスープなら
具体的に考えてみます。
白身魚と野菜を使った澄んだスープを作る場合です。
まず昆布で、
全体の旨味の土台
を作ります。
次に鯛で、
上品な魚介の旨味
を加えます。
味を確認して、もう少し厚みが欲しい場合には、
椎茸をごく少量加える方法も考えられます。
ここで重要なのは、
すべての素材を同じ量入れないことです。
昆布、鯛、椎茸にはそれぞれ役割があります。
必要な役割だけを、必要な量だけ使う。
これが「だしを組み立てる」という考え方です。
たとえば野菜スープなら
野菜を主体にしたスープでは、
まず昆布を土台にします。
それだけでは少し軽い場合、
椎茸を加えて旨味の厚みを出します。
魚介感を必要としないのであれば、いりこや鯛を必ず加える必要はありません。
料理に必要なものだけを使います。
これも、素材を役割で考えるメリットです。
すべての料理に強いだしは必要ない
だしを考えると、
「旨味を強くすればおいしくなる」
と思いがちです。
しかし、料理では必ずしもそうではありません。
主材料がおいしい場合には、だしは前に出ず、
素材を支えるだけでよい
こともあります。
特に、
- 鮮魚
- 野菜
- 貝
- 甲殻類
- きのこ
など、それ自体に旨味を持つ食材では、だしを強くしすぎないことも重要です。
だしは主役になることもあれば、
料理を支える脇役になることもあります。
飲食店のだしづくりは「工程」から「設計」へ
これまで、だしは、
昆布を浸ける時間。
加熱温度。
カツオを入れるタイミング。
濾すタイミング。
といった工程管理として考えられることが多くありました。
もちろん、それらは重要です。
しかしもう一つ、
料理にどの旨味が必要なのか
という設計の視点があります。
料理ごとに、
- 土台
- 香り
- 魚介感
- 厚み
- 余韻
を考える。
そして必要な素材を選ぶ。
この考え方ができると、和食だけでなく、
- 洋食
- スープ
- ソース
- 前菜
- 魚料理
- 野菜料理
にも、だし素材を応用しやすくなります。
まとめ|「だしを取る」から「だしを設計する」へ
だし取りは、日本料理の大切な技術です。
その一方で、すべての料理で同じ方法を使う必要はありません。
これからの飲食店では、
従来のだし取りを残す料理
と、
素材を使って旨味を組み立てる料理
を分けて考える方法があります。
ポイントは、
昆布=土台
カツオ=香り・和食らしさ
椎茸=厚み・余韻
いりこ=魚介感・輪郭
鯛=上品な魚介の旨味
という素材ごとの役割です。
そして、
「何を入れるか」
ではなく、
「この料理には何が足りないのか」
から考えます。
だしを一つの完成品として見るのではなく、
料理を構成する旨味のパーツとして考える。
それによって、
仕込み時間の短縮、
味の標準化、
料理ごとの微調整、
新しいメニュー開発
にもつなげることができます。
「だしを取る」から、
「だしを組み立てる」へ。
飲食店のだしづくりを、もう一度設計から考えてみる方法の一つです。
- 第1回 飲食店のだし取りを効率化する方法|仕込み時間・人手・味の安定を考える
- 第2回 飲食店の仕込み時間を短縮するには?だし・スープづくりから見直す方法
- 第3回 飲食店の味を安定させる方法|だし・スープの味が日によって変わる原因
- 第4回 飲食店の人手不足対策|仕込みを簡略化して調理と教育の負担を減らす考え方
- 第5回 必要な分だけだしを作る方法|飲食店の小ロット調理と食品ロス対策
- 第6回 和食のだし取りを効率化する方法|かつお・昆布・椎茸・いりこの使い分け
- 第7回 洋食のブイヨン・フォンの仕込みを効率化する方法|スープ・ソースへの活用
- 第8回 昆布・椎茸・いりこ・カツオ・鯛のだしはどう違う?料理別の使い分けを比較
- 第9回 粉末だしと液体だしの違い|飲食店ではどう使い分ける?
- 第10回 飲食店のだし濃度を安定させる方法|g・%・希釈倍率で味のブレを減らす
- 第11回 飲食店の「追い旨味」とは?仕上げで味を整えるだしの使い方
- 第12回 「だしを取る」から「だしを組み立てる」へ|料理人が素材から旨味を設計する方法

