節分で食べる炒り大豆も、瞬間高温高圧焼成法で加工した焼大豆フレークも、どちらも加熱され、そのまま食べられる大豆です。
ところが、実際に食べ比べてみると、焼大豆フレークは大豆特有の青臭さや雑味が感じにくく、強い甘味があります。さらに、お湯や料理の水分となじませることで、大豆の味わいを「だし」として利用できます。
同じように火が通った大豆でありながら、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センターが実施した遊離アミノ酸の比較試験をもとに、焼大豆フレークの特徴と、大豆だしとしての可能性を考えます。
市販の炒り大豆と焼大豆フレークを比較
今回の試験では、次の2種類の大豆が比較されました。
- 市販されている炒り大豆
- 高温高圧でプレス加工した焼大豆フレーク
市販の炒り大豆は、節分豆のように、そのまま食べられる状態まで焙煎された大豆です。
焼大豆フレークも、乾燥大豆を瞬間高温高圧焼成法で約0.6秒間加工し、そのまま食べられる状態にしたものです。
どちらも加熱済みの大豆ですが、加熱方法と加工後の形状が異なります。
一般的な炒り大豆は、粒の形を保ったまま内部まで火を通します。一方、焼大豆フレークは、高温と圧力を瞬間的に加えることで膨化し、内部に細かな空隙を持つ、軽く砕けやすい構造になります。
人工消化による遊離アミノ酸の変化を調査
大豆に含まれるたんぱく質は、多数のアミノ酸がつながった状態で存在しています。食べた大豆が胃や小腸で消化されると、たんぱく質が分解され、遊離アミノ酸などが生成します。
今回の試験では、人の胃と小腸に近い消化環境を試験管内で再現し、市販炒り大豆と焼大豆フレークから生成する遊離アミノ酸を比較しました。
試験の大まかな流れは次のとおりです。
- 市販炒り大豆と焼大豆フレークをそれぞれ試料として用意する
- 人工胃液を加え、37℃で胃における消化を再現する
- 続いて人工膵液を加え、小腸における消化を再現する
- 消化開始から60分後と180分後に試料を採取する
- 試料中の遊離アミノ酸を分析する
- 酵素を働かせない空試験との差から、人工消化によって増加した量を求める
ここで重要なのが、人工消化を行った試験だけでなく、消化酵素を働かせない「空試験」も行われていることです。
空試験の値は、人工消化によって新たに生成した遊離アミノ酸を除き、加工済みの大豆にもともと存在していた遊離アミノ酸に近い値を確認するためのものです。
空試験では焼大豆フレークの総遊離アミノ酸が約1.6倍
空試験で検出された総遊離アミノ酸濃度は、次のようになりました。
| 試料 | 60分 | 180分 |
|---|---|---|
| 市販炒り大豆 | 332mg/100g | 315mg/100g |
| 焼大豆フレーク | 533mg/100g | 542mg/100g |
焼大豆フレークの総遊離アミノ酸濃度は、市販炒り大豆と比べて60分で約1.6倍、180分で約1.7倍です。
試験報告書でも、空試験における焼大豆フレークの遊離アミノ酸濃度は、空試験の炒り大豆の約1.6倍と評価されています。
これは、人工消化によってアミノ酸が新たに生成する前に相当する条件で、焼大豆フレークから、より多くの遊離アミノ酸が検出されたことを示しています。
遊離アミノ酸は、食品の旨味、甘味、苦味など、味の形成に関係する成分の一つです。そのため、この違いは、焼大豆フレークの甘味や味の広がりを考えるうえで興味深い結果です。
ただし、総遊離アミノ酸には、旨味に関係するものだけでなく、甘味や苦味などに関係するアミノ酸も含まれます。
したがって、「焼大豆フレークの旨味が1.6倍になった」という意味ではありません。
空試験では、焼大豆フレークの総遊離アミノ酸濃度が、市販炒り大豆の約1.6倍確認された。
人工消化によって増加した量はほぼ同程度
次に、人工消化を行った試験の値から空試験の値を差し引き、消化によって新たに増加した総遊離アミノ酸量を比較します。
| 試料 | 消化60分後の増加量 | 消化180分後の増加量 |
|---|---|---|
| 市販炒り大豆 | 133mg/100g | 257mg/100g |
| 焼大豆フレーク | 133mg/100g | 245mg/100g |
60分後の増加量は、どちらも133mg/100gでした。
180分後は、市販炒り大豆が257mg/100g、焼大豆フレークが245mg/100gです。
報告書では、市販炒り大豆と焼大豆フレークの間で、人工消化によって増加した総遊離アミノ酸量に有意な差は認められなかったと結論づけています。
つまり、今回の試験では、次の2点が確認されました。
- 空試験では、焼大豆フレークの総遊離アミノ酸濃度が市販炒り大豆の約1.6倍だった
- 人工消化によって新たに増加した遊離アミノ酸量は、両者でほぼ同程度だった
約0.6秒という短時間で瞬間焼成した焼大豆フレークでも、人工消化によって生成する遊離アミノ酸量は、一般的な炒り大豆と同程度だったことになります。
同一原料ではないことに注意が必要
この試験結果を読み取るうえで、重要な注意点があります。
比較に使用した市販炒り大豆と焼大豆フレークは、同一の原料大豆から製造されたものではありません。
それでも、市販炒り大豆との比較で、焼大豆フレークから高い総遊離アミノ酸濃度が確認されたこと自体は、焼大豆フレークの味を考えるための重要なデータです。
同じ加熱大豆でも用途が異なる理由
市販炒り大豆と焼大豆フレークは、どちらも加熱済みですが、食べ方と料理への使い方は同じではありません。
市販炒り大豆は、主に粒を噛み、香ばしさや歯ごたえを楽しむ食品です。水やお湯に入れても、粒の内部まで水分が入り、味が広がるまでには時間がかかります。
一方、焼大豆フレークは、瞬間高温高圧焼成によって膨化し、多孔質で砕けやすい構造になっています。
このため、お湯や料理の水分と接触する面積が大きくなり、大豆の甘味や香ばしさを短時間で料理に広げやすくなります。
焼大豆フレークの特徴は、単に遊離アミノ酸の量だけではありません。
- 大豆特有の青臭さや雑味が感じにくい
- 口に入れたときに軽くほどける
- 大豆の甘味を感じやすい
- 砕きやすく、粉末にも加工できる
- お湯や料理の水分となじみやすい
こうした味と形状の両面が、「食べる大豆」から「料理に味を移して使う大豆」への展開につながっています。
「甘い大豆」と遊離アミノ酸の関係
焼大豆フレークを食べたときに、特に印象に残るのが大豆の甘味です。
人工消化酵素を働かせない空試験の個別値を見ると、市販炒り大豆と焼大豆フレークでは、味に関係する複数の遊離アミノ酸に違いが確認されました。
空試験60分の値は、次のとおりです。
| 遊離アミノ酸 | 市販炒り大豆 | 焼大豆フレーク |
|---|---|---|
| グリシン | 8.9mg/100g | 18.7mg/100g |
| アラニン | 20.4mg/100g | 34.7mg/100g |
| アスパラギン | 15.8mg/100g | 28.2mg/100g |
| アスパラギン酸 | 44.2mg/100g | 55.8mg/100g |
| プロリン | 13.9mg/100g | 17.8mg/100g |
| アルギニン | 45.8mg/100g | 188.8mg/100g |
グリシン、アラニン、プロリンなどは、甘味方向の味を持つことが知られているアミノ酸です。焼大豆フレークでこれらの値が高かったことは、実際に感じられる「大豆の甘さ」を考えるうえで興味深い結果です。
一方、この結果だけで「焼大豆フレークが甘い原因は、遊離アミノ酸が増えたため」と断定することはできません。
代表的な旨味成分であるグルタミン酸は、市販炒り大豆の71.8mg/100gに対して、焼大豆フレークは62.0mg/100gであり、焼大豆フレークの方が高いわけではありません。また、苦味を呈することがあるアルギニンは、焼大豆フレークで特に高い値を示しています。
食品の味は、一つのアミノ酸だけで決まるものではありません。
甘味、旨味、苦味などに関係する複数の成分に加え、糖類、香り、食感、口どけ、青臭さや雑味の感じ方などが重なり、全体の味わいが形づくられます。
今回比較した市販炒り大豆と焼大豆フレークでは、総遊離アミノ酸量だけでなく、個々の遊離アミノ酸の構成バランスも大きく異なっていました。
ただし、両者は同一の原料大豆ではありません。そのため、この違いが原料大豆によるものか、加工方法によるものかは、今回の試験だけでは判断できません。
現段階では、次のように捉えるのが適切です。
焼大豆フレークの空試験では、甘味方向の味を持つ複数の遊離アミノ酸が市販炒り大豆より高い値を示しました。これは、実際に感じられる大豆の甘味との関係を考えるうえで興味深い結果です。ただし、甘味の原因を遊離アミノ酸だけに求めることはできず、原料の違いや、香り、食感、雑味の感じ方なども含めて検討する必要があります。
つまり、焼大豆フレークの甘味は、「特定の一成分が増えたから生まれた」と考えるよりも、味に関係する成分の構成、香ばしさ、口どけ、青臭さや雑味の感じ方などが組み合わさり、大豆全体の味のバランスとして表れている可能性があります。
大豆だけから取る植物性のだし
昆布、椎茸、かつお節、煮干しなどは、代表的なだし素材です。一方、大豆をだし素材として捉える機会は、まだ多くありません。
焼大豆フレークにお湯を加えると、大豆由来のやさしい甘味と香ばしさが広がります。
昆布だしのようなグルタミン酸主体の味や、魚介だしのような強い風味とは異なり、料理の味を包み込むような、穏やかなコクを加えられることが特徴です。
例えば、次のような料理に活用できます。
- 味噌汁や豆乳スープ
- 野菜のポタージュ
- 植物性のスープやブイヨン
- カレーやシチュー
- 和風・洋風のソース
- ドレッシングやディップ
- プラントベース食品
- 粉末だしや複合調味料
昆布や椎茸、玉ねぎなどの植物性素材と組み合わせれば、動物性原料を使わずに、甘味とコクのあるだしを組み立てることもできます。
管理栄養士 山田 美穂
試験資料
広島県立総合技術研究所 食品工業技術センター
「焼大豆フレークの遊離アミノ酸生成量の評価に関する技術支援レポート」
令和5年6月12日
※市販炒り大豆と焼大豆フレークは同一原料ではありません。また、本試験は人工消化による遊離アミノ酸の変化を調べたものであり、お湯へのだし成分の抽出性や、人体における消化吸収性を直接確認した試験ではありません。

